前章では、車道を走るにあたって、車とどのように共存するかについて書きました。自転車に乗っていて起こる事故の大部分は、車との事故といっても過言ではありません。しっかりマスターできるように、普段からの意識を高めておこう。
さて、6月になると1年生はオン特訓ランに行くことになります。特訓ランでは、今までとは全く環境の異なる山岳路を走ります。山岳路では、平地では全く想像できないことがいっぱい待ち受けています。そこでここからは、山岳路、特に舗装路の峠の走り方について注意点を見ていくことにしよう。
Y.山岳路(峠)を走る
山岳路とは言っても舗装路の峠から険しい登山道までいろいろあります。ここでは舗装路の峠を想定して説明していこう。
(1)装備と持ち物
- @食料…
- 峠を越すためには、平地を走るのとは比べ物にならない程のエネルギーと水分と気合を必要とする。事前に十分に食料と水分を摂取し、非常食(カロリーメイト、エネルギーゼリーまたは普通の弁当などのカロリー価の高いもの)、それから夏は特に、大量の水分(750mlボトル、1.5lペットボトル)を携行すること。これらは、車でいえばガソリンに相当するような重要なものである。
- A服装…
- 峠ということは、当然辛い登りが続く。思ったより汗が出るので、発汗性の良い服装が必要。となると、レーサージャージ+レーサーパンツに優る服装はないのだが、なければ、Tシャツにジャージ等の普段の運動時の服装でもよい。動き易いことが前提。Gパンは、発汗性悪く、動き難く、重いので、論外。
また、登りでは非常に暑くなるのに対し、下りでは一転して非常に寒い。標高の高い所だとなおさら。汗をかいていると余計に体温を奪われ、体に良くないので、着替えがあるとよい。また、下りのためのウィンドブレーカー、天候の変化に対する雨具も必携品。(ウィンブレと雨具は共通ということが多い。GORA-TEXの雨具が人気です。)ヘルメット、グローブなどは、言うまでもなし。
- B自転車関係…
- 山岳路に限らず、普段からパンク修理をはじめとした修理用具は携帯するように。自転車屋のない山岳路では、全ての修理は自分たちでしなくてはならないのだから。ただ、登りもあるし、何でも持っていけばいいというものでもない。荷物は必要にして最小限にとどめるのが、永遠のテーマである。
峠の下りでは、スピードが出るので、ちょっとした自転車の不備が大事故につながることもある。従って、自転車の整備と点検を怠らないこと。また、万が一下りなどでコケた時に備えて、救急用具も必要。どれもこれも、山岳路に限った話ではない。
(2)峠を登る
- @ペース
- 人によって体力には差がある。無理に速い人に合わせる必要はない。頑張らなければ坂は登れないが、頑張り過ぎてもバテてしまう。基本は、続けられる範囲で、一定のペースで走ること。疲れたらすぐに休む。無理は禁物。
- A補給
- 自転車は、想像以上にカロリー、水分を消耗するものである。登りではなおさらのこと。登り始める前に、十分にエネルギーと水分を摂取しておく。登っている時にもこまめに補給をすること。空腹を感じてから、喉が渇いてから、ではもう遅い。カロリーを摂取せずにいると、やがてハンガーノック(いわゆる燃料切れ。体に力が入らなくなり、寒くなったり意識が遠くなったり、震えたりする。注意力も落ち、非常に危険な状態。)になってしまう。水分補給を怠ると、疲れ易くなり、夏場では脱水症状、熱射病になってしまうこともある。
エネルギー分は、なるべくカロリーの高いもの(カロリーメイト、チョコレート、おにぎりなど)、水分はスポーツドリンクなど、吸収し易いものがよい。エネルギーゼリー(ウィダーインゼリーなど)は、両者の中間のようなもので、携帯すると非常に便利。
基本は、走る前、走っている最中、走り終わった後と、常に補給を怠らないこと。
- B走り方
- 基本的には、平地走行と同じなのだが、登る時には常にペダルを踏み続けていなければならない。どうせ登るなら、しっかりとしたポジションでなるべく楽に登る方がいい。
こぎ方は、2通り。座ったまま(シッティング)と、立ちこぎ(ダンシング)である。以下の写真では、ドロップハンドルをモデルとしているが、フラットハンドルでも、基本は同じ。
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*ダンシング
ダンシングは急な坂や短い坂を比較的短時間で上るとき、坂の途中で加速するときに用いる走法。体重の軽い人は長く続けられるが、女性や体重のある人は苦手かも。
左足に体重を載せているときは左足を踏み込むと同時に左腕を引く感じでバイクを右に振る。体を振ったり蛇行してはいけない。(図左)
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*シッティング
シッティングは登りの基本走法。長い坂を一定のリズムで疲労を少なくして走るのに向いている。腕力のない女性や体重のある人はこの走法の方が疲れない。
大切なのは使うギアで、軽めのギアをくるくる回して登った方が効率的。上半身はリラックスしたまま不要な力は入れない。視線は10メートルぐらい前を向く。つらいからといって下ばかり向いていると、きついだけでなく危ないぞ。
ペダルを踏み込む瞬間上半身を固定したままグッと腕をひきつける感じがこつ。
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- C登る際の注意。
- 疲れてくると、こぐことに精一杯になり、ふらつきがちになる。登りの途中でも、後ろから車やバイクが抜いてくるので、ふらついたり、車道に大きくはみ出したりしないこと。前方を見てまっすぐ走る。
- 少々テクニカルな話になるが、上り坂を重いギアで死にもの狂いになって踏んでる人がいるが、これは膝のためにも、効率的にも、良くない。なるべく軽いギアでくるくる回すようにしよう。そのためにギアがあるのだから。
(3)やっと峠についたぞ!
それゃぁ峠についた感動は登った者しか味わえない何ともいえないものがある。景色を見るなり、感慨にふけるなり、好きなことをすればよい。しかし、下りが待ち構えていることを忘れてはいけない。
登り切った後、汗をかいた体は急速に冷えてくる。着替えるなり、上に羽織るなりして、体が冷えないようにすること。体調を崩したり、筋肉が固まってしまうからである。それから、失った水分とエネルギーもしっかり補給しておこう。
(4)山岳路(峠)を下る。
下りは楽しい。中には、このために、わざわざ気の遠くなるような峠の登りに挑み続ける者もいる。
自転車の究極の醍醐味は、下りにあるといっても過言ではない。しかし、下りは常に危険と背中合わせであることも忘れてはならない。以下に注意点を挙げてみよう。
- @下り始める前に確認!
- ●ヘルメットをかぶったか?
- ●グローブをしたか?(自転車用の。防寒と衝撃吸収。軍手は、滑りやすく、指の動きを妨げるので△)
- ●ホイール(クイックレバー)は固定されているか?(下りで脱輪したら、大変!)
- ●ブレーキはちゃんときくか?(開放にしていないか。)
- ●タイヤの空気圧、寿命は大丈夫?(下り途中のパンクも危険。特にチューブラータイヤのセメントは要chek!)
- ●峠に忘れ物はないか?(もう一度登り直すのは、つらい。)
- A下る時の基本事項……ブレーキングを中心に
- ●まず大事なのは、恐いと思うスピード以上は、絶対に出さないこと。下りでの事故の殆どはオーバースピード(精神的、技術的に許容範囲を越えたスピードのこと)による。初心者は、下りではいつでも「止まれる」ようなスピードで下るのが安全である。絶えずスピードを殺すことが重要。
- ●減速のポイントは、断続的にブレーキをかけること。ずっと握りすぎると、ブレーキが焼け付いてしまい、効かなくなってしまう。また、急ブレーキも禁物。タイヤがロック(スリップ)して制動、コントロールが効かなくなり、大変危険。
- ●ブレーキをかける時には、腰を引く。(→第U章を参照)これは、前輪制動時の前転防止と共に、制動効果を上げる目的もあります。ツーリング時に限らず、普段から自転車に乗る時にはいつでのこの事を心がけ、とっさの時にも出来るように体で覚えること。
- ●下りはじめは勿論、長い下りの途中では、腕や指、腰が疲れることがある。そんな時は迷わずに止まって休むこと。集中力が落ちた状態での下りは非常に危険。
- ●重心はなるべく低く落とした方が安定性がよい。重心が高いと、スピードが出た時に不安定。
- ●前の人と離れても、追いかけようとしない。自分のペースで下ること。下りでは普段よりもスピードが出るので、間隔が開くのは当然のこと。無理して追いかけて事故っていてはしゃれにならない。どうせ下り終わったところで追いつくさ、くらいの余裕の構えが欲しい。それに、下りでチギって、置いて行ってしまうようないぢめっ子は、なかよしにはいません。
- Bカーブの曲がり方[基本編]……これが一番大事!
- ●まずカーブの手前で十分にスピードを落とす。(何かあったらすぐに止まれるくらいのつもりで。)カーブに入ってからでは完全に遅いし、カーブに入ってからの急ブレーキは厳禁!
- ●ブレーキは後ろから前の順で、ジワッとかける。(制動力は前のほうがメイン。)
- ●カーブ中は絶対に対向車線にはみ出ない。急カーブ(ブラインドカーブ、ヘアピンカーブ等と言う)には、カーブミラーが設置してあることが多いので、その時は、カーブの先から車や二輪車が飛出して来ないか十分に注視する。(走り屋の中には、カーブで対向車線にはみ出して突っ込んで来るならず者も存在するので、こちらもキープレフトを心がけておく必要がある。)ミラーのない場合には耳を澄ましてクラクションやエンジン音から察すること。この事は、カーブが急であればあるほど、道が狭ければ狭いほど、交通量が多ければ多いほど、気を付けねばならない。
- ●カーブ中は、内側のクランク(ペダル)を上に、外側のクランクを下にする(→応用編のイラスト参照)。カーブを曲がる時には自転車は内側に倒れる。この時、内側のペダルが下がっていると、地面に接触して大転倒します(→第一回を参照のこと)。だから、カーブの途中から加速しようとしてペダルを回さないこと。
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- ●カーブ中はなるべくブレーキをかけない。カーブ中にタイヤがスリップすると、横転するから。同じ理由で、急ハンドルも禁物。
- ●あまり端に寄りすぎない。道のカーブの隅には、砂や砂利が溜まっていることがよくある。この上を走ると、非常に滑りやすいので危険。(特に右カーブの際に注意。)
- ●雨の日は、極力スピードを出さないこと。晴れの日に比べ、数倍スリップしやすい。
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- ●ラインや、制限速度表示など、ペイントの上や、マンホールの上はもっと滑りやすい。この上を走らないこと。(雨の日には、悲惨。)
- Cカーブの曲がり方[応用編]
- ●3つのコーナリングフォーム
- コーナリングというのは、ハンドルを切るというよりは、ライダーと自転車を倒し込むことによってはじめて可能になる。これは、スピードが出れば出るほど顕著に解るようになる。
この倒し方に、3通りのやり方があって、それぞれ状況によって使い分けることになる。以下の図を参考にしてみよう。
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- *1:リーンウィズ
- 体の中心線と自転車の傾きが同じ。これが低速から高速まで、コーナリング時の最も基本的な姿勢。
- *2:リーンイン
- 自転車の傾きより体の中心が内側。同じ走路(ラインという)でも、リーンウィズに比べて自転車を起すことが出来るので、雨の日など、タイヤのグリップを確保したい時に使う。また、ラインを外側に矯正する時に瞬時に用いる。
- *3:リーンアウト
- 自転車の傾きより体の中心が外側。オーバースピードでコーナーに突っ込んだ時、障害物を発見した時など、ラインをインに切れ込むように修正する時に。
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- #外側(クランクを下げた方)の脚にしっかりと荷重する。スキーの外足荷重のイメージでよい。こうすることによって、コーナリング中、自転車が安定する。
- #視線はコーナーの出口を見る。これは一番重要。人間は見ている方向に自然と進んでいく傾向が ある。従って、曲がっていく方向を見ることによって、自然とそちらに曲がっていくもの。逆に言うと、下りカーブ(特にヘアピンカーブ)で対向車線の側溝やガードレールに気を取られると、 曲がりきれずに突っ込んでしまうのだ。視線をピタッと決めれば、ラインもピタリと安定する。
- #頭の傾きは常に地面に対して垂直。これも前項と並んで重要で、自転車の傾きを感知するため。
- #ハンドルをしっかり握り、いざという時のためにブレーキレバーに指をかけておく。ただ、きつく握り過ぎると、ハンドル操作がぎこちなくなるので、腕と肩はリラックスさせる。
- ●ラインどりの基本
- 一番基本的な方法は、道に沿って、端から一定の間隔をキープして曲がること。しかし、スピードが出てきたり、道幅に変化があったり、路側に砂利などの障害物がある場合になってくると(むしろ普通はこっち)、この基本原則から次第に離れることになる。このような場合にコーナリングの原則となるのは、「アウト・イン・アウト」である。つまり、コーナーに入る時は道路のやや中央よりから入り、内側に切れ込むようにして曲がった後、また外側に膨らみながら立ち上げていくといった感じである。これが通常のコーナリングの基本となる。但し気を付けて欲しいのは、極端な「アウト・イン・アウト」は、車との接触などを招き、危険。(この膨らみの度合は、スピードに比例するものと思われる。)やはりスピードを出し過ぎないこと、自分のラインと他の自転車、車のラインとの錯綜を防ぐことには細心の注意を払うべき。
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- ●スピードに対する構え
- 慣れてくると、当然下りのスピードも上がってくるが、自分の技術と自転車の性能を過信したオーバースピードは絶対に禁物である。下級生のオーバースピードに対して、上級生は常に牽制し、上級生もむやみに飛ばすべきではない。
技術的には、重心を落とすことが重要。視線、外足過重、上半身のブロックは、前項に述べたとおり。
- ●自転車装備関係
- タイヤにも、何種類があり、走行性能に差がある。下りでは、前後のトルク、横方向の横Gと、タイヤの性能は走りに大きく影響する。擦り減った古いタイヤで下るのは危険。峠に行く時には新しいタイヤを付けていることが望ましい。走行中のパンク、バースト(タイヤの爆発)は大事故につながる。空気圧も重要で、高すぎず(←バースト、雨天時などグリップ力低下、跳ねやすい)、低すぎず(←リム打ちパンク)タイヤに適した空気圧に保っておく。
なお、ロードレーサーのチューブラータイヤに関しては、セメントをしっかり塗っておくこと。(下りの途中で外れると、リムが火を吹くとか?)ブレーキのかけ過ぎでリムセメントが溶けることもある。
MTBに関しては、舗装路の下りではブロックタイヤはグリップが弱いので、無理して倒し込まない。舗装路しか走らないときはセンターリッジのツーリングタイヤの方がオススメ。スリックタイヤも雨天時の高速走行を考えると、不安。(筆者は、雨上がりの路面でファットボーイを履いて見事にコケた。)
ブレーキに関しては、ブレーキシューは減ったらすぐに交換。また、リムの汚れもシューの減りを早め、ブレーキ性能を低下させるので、常に掃除しておくこと。特に雨天走行のあとね。(ガラスクリーナーで掃除すると、ブレーキの効きが異様に良くなるという噂。)
- ●その他
- 峠の下りでは自転車はしばしば車より速く下る。そんな時、無理に車を抜いたり、煽ったりしない。巻き込まれたり対向車と衝突する危険性がある。邪魔をされたくなければ、車を先に通してから自分のペースで下る。(結構これをしっかり守るには、大人であることを要求されることを感じますね。←やべえ)
→実際の事故の例に学ぶ。
★参考図書 (図、写真)
『スポーツバイシクルライディングテクニック』(山と渓谷社)
『ロード自転車のABC』(sky-journal)
『NC自転車走行術』(吉国さん)
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